妄想新幹線
2009年 05月 26日
何のためにお酒があるのか何のために歌があるのか何のために映画があるのか。
自分の力だけでは身動きがとれないほど、ある種の氷山に氷漬けにされて、それをゆるゆると溶かすきみの歌声を聴いて、私は初めてその意味を知ったようだ。
午前6時30分、東京発のぞみ30号12号車を覗いてみると良い。
スーツのジャケットを窓際に引っ掛けた男たちが携帯電話を片手にキーボードを叩いている、つぎはーしんよこはまーしんよこはまー、間延びしたアナウンスと売り子が押すカートの車輪が回る音のほかはしんとしてくしゃみをするとぎろりと睨まれる、日が差し込んでくるとあちこちの窓でカーテンが下ろされる。
そんな車内の片隅で私は、この有様について考えている。
この真っ黒なスーツの、カートが近づいてくると100円玉3枚を突き出して、濃くて苦い紙カップのコーヒーを買う男たちがこの生活をやめようと思ったとしたら…。そしてやめてしまったとしたら…。
この有様を成り立たせているお約束は崩れ、新幹線は時間通りに来ることがなくなるだろう。
お弁当の中身は信用がなくなるし、コーヒーの紙コップを捨てたゴミ箱があふれるまで放置されるだろう。
男たちは、新幹線を時間通りに走らせ、お弁当の安全性を保証し、1日3回ゴミの回収をさせるために、すべてを投げ出すわけにはいかない。
ただいま、列車右側に富士山が綺麗に見えています…抑揚のないアナウンスに少し遅れて、携帯電話のカメラのシャッター音が、遠慮がちに響く。それを心地良く聴きながら、1/3ほどまで読みかけた小説を膝に置いて、私はまどろむ。
何のために本があるのか何のために人がいるのか何のために社会があるのか。
小説の続きに答えがあるさと、夢の中で誰かが呟く。
自分の力だけでは身動きがとれないほど、ある種の氷山に氷漬けにされて、それをゆるゆると溶かすきみの歌声を聴いて、私は初めてその意味を知ったようだ。
午前6時30分、東京発のぞみ30号12号車を覗いてみると良い。
スーツのジャケットを窓際に引っ掛けた男たちが携帯電話を片手にキーボードを叩いている、つぎはーしんよこはまーしんよこはまー、間延びしたアナウンスと売り子が押すカートの車輪が回る音のほかはしんとしてくしゃみをするとぎろりと睨まれる、日が差し込んでくるとあちこちの窓でカーテンが下ろされる。
そんな車内の片隅で私は、この有様について考えている。
この真っ黒なスーツの、カートが近づいてくると100円玉3枚を突き出して、濃くて苦い紙カップのコーヒーを買う男たちがこの生活をやめようと思ったとしたら…。そしてやめてしまったとしたら…。
この有様を成り立たせているお約束は崩れ、新幹線は時間通りに来ることがなくなるだろう。
お弁当の中身は信用がなくなるし、コーヒーの紙コップを捨てたゴミ箱があふれるまで放置されるだろう。
男たちは、新幹線を時間通りに走らせ、お弁当の安全性を保証し、1日3回ゴミの回収をさせるために、すべてを投げ出すわけにはいかない。
ただいま、列車右側に富士山が綺麗に見えています…抑揚のないアナウンスに少し遅れて、携帯電話のカメラのシャッター音が、遠慮がちに響く。それを心地良く聴きながら、1/3ほどまで読みかけた小説を膝に置いて、私はまどろむ。
何のために本があるのか何のために人がいるのか何のために社会があるのか。
小説の続きに答えがあるさと、夢の中で誰かが呟く。
by kyonkoenglish
| 2009-05-26 20:47