並木通りの春
2009年 04月 23日
結膜下出血、とな。
「皮膚の内出血と同じだから放っておけば治ります」
無表情な女性眼科医の言葉。ちょっと肩透かしをくった感じで薄暗いペンシルビルの階段を降りてくると、上智大学キャンパスから光の粒がこぼれるように飛び出してくる女学生たちの生足に、しばしぼうっとなる。あー、いいな。ミニの白ワンピースにジャケットかぁ。風が吹いてふわりとワンピースの裾がふくらんだ。通り沿いに植わっている並木の黄緑の葉が、いっせいに揺れる。
あ。これ。
記憶が一気に、初めてこの街に来たときに飛ぶ。
大学入学と同時に上京した私は、親戚からいただいた入学金で、会議通訳などを輩出する英語学校に入ったのだった。その学校は麹町にあった。初めて四ッ谷駅で降りて、こわごわ足を踏み出したときの驚き。東京と言えば渋谷しか知らなかった私にとって、麹町はとてつもなく大人で、落ち着いた街に見えた。通りは広く、人々はフォーマルな服装をしていて、語学学校と税理士事務所がたくさんあった。気持ちの良い風が吹き、並木の葉がさわさわと揺れていた。
当時、憧れのお兄さんであったQとは、もう英語の話をしていた。
「へぇ、会議通訳か。面白そうだね。どこにあるの、その学校」
「すごく素敵な街なの。・・・えーっと、めんまち、っていうの!」
「・・・・・・。」
5秒ほど、考える風になったQは、笑いを噛み殺して言った。
「ひょっとして、麹町、かな」
あれからちょうど8年。
まさかその街に住むことになるとは。そしてあのQが、やがて誰よりも近い存在になり、そしてずっと手の届かないところに行ってしまうとは・・・。
Tully's Coffeeカウンターから眺める並木は本当に細くて、まだ植えられたばかりに見えるのに、小さな葉っぱたちは相変わらず心細そうに揺れているのに、それを眺める私の時間だけは、確実に、流れている。
「皮膚の内出血と同じだから放っておけば治ります」
無表情な女性眼科医の言葉。ちょっと肩透かしをくった感じで薄暗いペンシルビルの階段を降りてくると、上智大学キャンパスから光の粒がこぼれるように飛び出してくる女学生たちの生足に、しばしぼうっとなる。あー、いいな。ミニの白ワンピースにジャケットかぁ。風が吹いてふわりとワンピースの裾がふくらんだ。通り沿いに植わっている並木の黄緑の葉が、いっせいに揺れる。
あ。これ。
記憶が一気に、初めてこの街に来たときに飛ぶ。
大学入学と同時に上京した私は、親戚からいただいた入学金で、会議通訳などを輩出する英語学校に入ったのだった。その学校は麹町にあった。初めて四ッ谷駅で降りて、こわごわ足を踏み出したときの驚き。東京と言えば渋谷しか知らなかった私にとって、麹町はとてつもなく大人で、落ち着いた街に見えた。通りは広く、人々はフォーマルな服装をしていて、語学学校と税理士事務所がたくさんあった。気持ちの良い風が吹き、並木の葉がさわさわと揺れていた。
当時、憧れのお兄さんであったQとは、もう英語の話をしていた。
「へぇ、会議通訳か。面白そうだね。どこにあるの、その学校」
「すごく素敵な街なの。・・・えーっと、めんまち、っていうの!」
「・・・・・・。」
5秒ほど、考える風になったQは、笑いを噛み殺して言った。
「ひょっとして、麹町、かな」
あれからちょうど8年。
まさかその街に住むことになるとは。そしてあのQが、やがて誰よりも近い存在になり、そしてずっと手の届かないところに行ってしまうとは・・・。
Tully's Coffeeカウンターから眺める並木は本当に細くて、まだ植えられたばかりに見えるのに、小さな葉っぱたちは相変わらず心細そうに揺れているのに、それを眺める私の時間だけは、確実に、流れている。
by kyonkoenglish
| 2009-04-23 18:03