通り雨
2009年 08月 10日
ダルい週末だった。
金曜の夜、久しぶりに会ったIMとしこたま飲んだ甘いカクテルはまだ身体の中をゆるゆると循環しており(ホテルの最上階にあるそのバーは、IMが来たがったのだが、『もう一度来たいと思ってたけど、まさかサバと来るとはな』と憎まれ口を叩いていた)、休日の部屋に閉じこもってその余韻に浸るのは嫌いではなかった。
ついに日曜の夕方になって、のろのろとベッドから這い出す。先週コンタクトレンズを落としてしまったから、買いに行かなければならない。学生時代から通っている眼科は、今では滅多に行かない渋谷にある。日曜の渋谷に出かけるのは気が進まなかったが、仕方がない。
マークシティのエスカレーターは予想通り混んでいてうんざりだった。さらに厄介なことには、ぽつぽつと雨が降り始めた。エスカレーターを降りてすぐの眼科に駆け込もうとすると、シャッターが下りている。
「今日、こちらはお休みなんですけど、宮益坂の方は空いてますから」
黄色いビニールのジャンパーを着たバイトの女の子が声をかけてきた。話している間に雨はどんどん強くなり、走ってそばの店の軒先に駆け込む。ついてない。
何をテーマにしているのかわからないファッションに身を固めた若者たちやさっきまで道路に立っていた警備員が一様に下を向いて走っているのを眺めていると、ふと前を横切る二人組に目が吸い寄せられた。
背が高い男と、小学校前と思われる男の子。
…ひょっとして。
下を向いて走っているので顔は見えない。が、男が着ていた服の襟がバーバリーだったのを確かめると、私は二人が駆け込んだ隣りの店の軒下まで走った。
「---さん。」
呼びかけると、男は振り返って、信じられない、というように私を何度も見た。
「…なんだか運命的な出会いだね」
最後に会ってから、数年経ったはずだ。
「その子が、-----くん? 本当に、かわいいね」
男は離婚していて、息子とは一ヶ月に一度会っていたはずだ、と思い出しながら私は言った。
私はその子と初めて会ったはずだが、何度も話を聞いていたせいか、想像通りだ、と思った。
話しかけても恥ずかしそうに下を向いていたが、質問するとはきはきと答えた。
「元気そうだね」
「元気よ、忙しいけど」
「でも、元気なんだね?」
「とっても」
「良かった」
もっと話すことがあるような気がしたが、何を話せば良いのかわからなかった。
そこで、息子の方と今朝の侍戦隊シンケンジャーについて話した。
そしてすぐに雨はやんだ。
「彼氏によろしくね」
「…うん」
息子に無理矢理ばいばい、と手を振らせると、二人は去った。
なんだったんだろう…。
コンタクトレンズを失くしたことも、qちゃんがサークルの合宿に出かけていて週末一人だったことも、ギリギリになってから渋谷に来たことも、眼科が閉まっていたことも、突然雨が降り出したことも、すべてこの再会のために用意されていた気がした。としか思えなかった。
久しぶりに、神様のいたずらのことを思い出した。
私の神様は、時折こうしたいたずらを用意する。驚くような偶然のイベントを引き起こし、戸惑う私を見てきゃっきゃと笑っている。後になって、そのいたずらには深いメッセージや皮肉が込められていることに気づく。
…今度は何を言いたいのだ。
すっかり雨がやんだ空を見上げると、灰色の雲の隙間から笑い声がこぼれてきた気がしたが、それはそう不快なものではなかった。
金曜の夜、久しぶりに会ったIMとしこたま飲んだ甘いカクテルはまだ身体の中をゆるゆると循環しており(ホテルの最上階にあるそのバーは、IMが来たがったのだが、『もう一度来たいと思ってたけど、まさかサバと来るとはな』と憎まれ口を叩いていた)、休日の部屋に閉じこもってその余韻に浸るのは嫌いではなかった。
ついに日曜の夕方になって、のろのろとベッドから這い出す。先週コンタクトレンズを落としてしまったから、買いに行かなければならない。学生時代から通っている眼科は、今では滅多に行かない渋谷にある。日曜の渋谷に出かけるのは気が進まなかったが、仕方がない。
マークシティのエスカレーターは予想通り混んでいてうんざりだった。さらに厄介なことには、ぽつぽつと雨が降り始めた。エスカレーターを降りてすぐの眼科に駆け込もうとすると、シャッターが下りている。
「今日、こちらはお休みなんですけど、宮益坂の方は空いてますから」
黄色いビニールのジャンパーを着たバイトの女の子が声をかけてきた。話している間に雨はどんどん強くなり、走ってそばの店の軒先に駆け込む。ついてない。
何をテーマにしているのかわからないファッションに身を固めた若者たちやさっきまで道路に立っていた警備員が一様に下を向いて走っているのを眺めていると、ふと前を横切る二人組に目が吸い寄せられた。
背が高い男と、小学校前と思われる男の子。
…ひょっとして。
下を向いて走っているので顔は見えない。が、男が着ていた服の襟がバーバリーだったのを確かめると、私は二人が駆け込んだ隣りの店の軒下まで走った。
「---さん。」
呼びかけると、男は振り返って、信じられない、というように私を何度も見た。
「…なんだか運命的な出会いだね」
最後に会ってから、数年経ったはずだ。
「その子が、-----くん? 本当に、かわいいね」
男は離婚していて、息子とは一ヶ月に一度会っていたはずだ、と思い出しながら私は言った。
私はその子と初めて会ったはずだが、何度も話を聞いていたせいか、想像通りだ、と思った。
話しかけても恥ずかしそうに下を向いていたが、質問するとはきはきと答えた。
「元気そうだね」
「元気よ、忙しいけど」
「でも、元気なんだね?」
「とっても」
「良かった」
もっと話すことがあるような気がしたが、何を話せば良いのかわからなかった。
そこで、息子の方と今朝の侍戦隊シンケンジャーについて話した。
そしてすぐに雨はやんだ。
「彼氏によろしくね」
「…うん」
息子に無理矢理ばいばい、と手を振らせると、二人は去った。
なんだったんだろう…。
コンタクトレンズを失くしたことも、qちゃんがサークルの合宿に出かけていて週末一人だったことも、ギリギリになってから渋谷に来たことも、眼科が閉まっていたことも、突然雨が降り出したことも、すべてこの再会のために用意されていた気がした。としか思えなかった。
久しぶりに、神様のいたずらのことを思い出した。
私の神様は、時折こうしたいたずらを用意する。驚くような偶然のイベントを引き起こし、戸惑う私を見てきゃっきゃと笑っている。後になって、そのいたずらには深いメッセージや皮肉が込められていることに気づく。
…今度は何を言いたいのだ。
すっかり雨がやんだ空を見上げると、灰色の雲の隙間から笑い声がこぼれてきた気がしたが、それはそう不快なものではなかった。
by kyonkoenglish
| 2009-08-10 04:23